Vol.18 エリキシール ダンヴェール
F.X.ブクラー社(ベルギー)
ベルギーの人々の幼い頃の思い出が支えるベルギーの名酒
どこの国にも、人々に何かを思い起こさせるお酒があります。ベルギーの人々にとって、ある種の懐かしさとともに思い出とされるお酒、それがエリキシール ダンヴェールです。「小さい頃、祖父母の家に遊びにいくと、小さなグラスにほんの少し飲ませてもらったものだ」「いや、私は角砂糖に数滴だけ染み込ませてもらって、大事に食べたものだ。あの、えもいわれぬ香りと甘さが溶け合った味は忘れられない」「おなかが痛いときにだけ、飲ませてもらった。腹痛はつらかったけど、あの“薬”が飲めると思うとうれしかったな」…まだ幼かった頃のさまざまな情景が、エリキシール ダンヴェールとともに、人々の胸によみがえります。
そう、エリキシール ダンヴェールは、ベルギーの人々にとって、単なるお酒ではなく、健康を守る上で欠かせない貴重なリキュールでもあったのです。腹痛をはじめとするさまざまな病気はもちろん、馬のかんしゃくにも効く万能薬として、エリキシール ダンヴェールは古くから親しまれてきました。
医学と薬学をベースに創り出されたハーブが織り成す高貴な味わい
中世ヨーロッパが幾多の戦いや文化を織り歴史を重ねるなか、英知のリキュール、エリキシール ダンヴェールを生み出したブクラー家も、一家の歴史を織り続けてきました。13世紀の終わりごろには、ブクラー家の中から、海外へ移住する者も現れています。
フランスのアルザス地方からベルギーのアントワープに居を移したブクラー家は、18世紀に入ると食品業界で活躍を始めます。そして、ブクラーという名が優れた品質を示すブランドとして人々に認められる基礎を着々と築いていきました。こうした豊かな土壌から大輪の花が開いたのは、1863年3月19日の午前2時のことでした。
アントワープ郊外にあるブクラー家では、医学博士、薬剤博士としての勉強を終えたフランソワ・クサヴィエ・ブクラーが、数年間にわたって心血を注いだ研究を続けていました。専門である医学と薬学をベースに、さまざまな植物やハーブの薬効を抽出したお酒の開発が彼の研究テーマでした。
彼が試した配合は、数限りないものでした。どれにも満足できず、さらに研究を重ねる日々。その孤独で試練に満ちた研究がついに完成したのが、1863年3月19日の午前2時だったのです。32種類の植物やハーブが織り成すユニークな味わいに加えて、消化促進、食欲増進、整腸効果を併せ持つエリキシール ダンヴェールの誕生は、まだ太陽の昇らない深夜でした。
数々の名誉ある賞に輝き、ベルギー王室御用達の蒸留所に
それからの日々は、フランソワ・クサヴィエ・ブクラーにとって、まさに大きな波に乗って大海に乗り出すような歓喜と冒険に満ちた時間の連続でした。まず、彼は蒸留所の建設に着手します。この蒸留所でエリキシール ダンヴェールの最初の1瓶創り出されたときから、ブクラー家は蒸留所としての道を歩み始めます。
今までになかったユニークなハーモニーは、瞬く間に人々の心をとらえていきます。32種類の植物とハーブから抽出された薬効も、エリキシール ダンヴェールを有名にした大きな要因でした。人々は、おいしいリキュールを飲む楽しみと、健康増進のメリットをともに手に入れることができたのです。
1880年には事業の規模が拡大し、工場を移転することになります。本社事務所も別に建てられ、支店も3ヶ所設置されました。
この間、それまでに味わったことがなかった特長のおかげで、エリキシール ダンヴェールはヨーロッパだけでなく、アメリカ、アフリカなどで数多くの金メダルや名誉ある賞を受賞しています。
なかでも1887年にフランスの世界的科学者、ルイ・パストゥールが名誉会長を務めたブローヌ・シュル・メール世界博覧会では、パストゥールのサインが記された表彰状を授与されています。受賞を知ったアントワープ市長からの手紙には、「御社の素晴らしい栄誉を称えることを任され、市長として身に余る光栄です。心よりお祝い申し上げます」と記されています。この受賞は、アントワープ市にとっても、誇りある名誉なものだったのです。
その後もエリキシール ダンヴェールの人気はとどまるところを知らず、次々と工場の移転や新設が続き、1849年には最新のモデル工場が建てられました。こうした事業の発展に伴い、フランソワ・クサヴィエ・ブクラーは、妻、息子のエミール ルイとともに1909年から共同経営を開始します。
フランソワ・クサヴィエ・夫妻は、第一次世界大戦中に亡くなりますが、彼が起こした事業は息子たちへと引き継がれていきます。ベルギーで最も古く有名な蒸留所として、さらにはベルギー王室御用達の名門蒸留所として、現在に至っています。
無限の可能性を秘めた精妙な香りのハーモニー
エリキシール ダンヴェールには、マラガオレンジピール、キュラソーオレンジピール、ハイチオレンジピール、コリアンダー、サフラン、スターアニス、クローブ、キュラウェー…など、32種類の植物やハーブが用いられています。フランソワ・クサヴィエ・ブクラーが心血を注いだレシピは、現在も何一つ変わっていません。製造工程には4つの段階に分けられます。製造に要する期間は約5ヶ月です。
【マセラシオン】浸漬
植物やハーブなどの原材料をポットスチルに入れ、純粋なアルコールを加えて長時間漬け込みます。
【蒸留】
蒸気によってポットスチルをゆっくりと加熱しながら、蒸留を行います。純粋なアルコールには原材料の風味や香りが溶け込んでいます。これがエリキシール ダンヴェールの原酒です。
【オートクレーブでの調整】
エリキシール ダンヴェールの原酒に、酒精、軟水、砂糖を加えます。
【オーク樽での熟成】
調整を終えたエリキシール ダンヴェールをオーク樽に入れ、ゆっくりと寝かせます。この最終工程により、独特のなめらかな味わいが誕生します。
現在、エリキシール ダンヴェールほど世界中の人々に愛されているハーブリキュールはありません。ストレート、あるいはロックで、豊かなハーブのハーモニーを楽しむのはもちろんのこと、コーヒーに数滴加えるのを無上の喜びにしているい人々もいます。
カクテルのベースとしても、エリキシール ダンヴェールは確固たる地位を築き上げています。複雑で微妙なハーブの香りと、ほのかに甘い植物のエッセンスは、バーテンダーの創作意欲をかきたてます。また、ベルギーをはじめヨーロッパのパティシエの英知により、焼き菓子やムース、ボンボン、トリュフなど様々な洋菓子にも、エリキシール ダンヴェールの奥深く高貴なハーブの風味が活かされています。