Vol.12 モンレニオンヴァニラ <エクセラン>

シャテル社(フランス領レユニオン島)



世界最高品質のヴァニラは一人の奴隷の知恵から生まれた

ヴァニラの歴史は、小さな蜂と一人の奴隷の存在を抜きにしては語れません。それでは、ヴァニラにまつわる長い歴史をひもといてみましょう。
ヴァニラはメキシコ原産のらん科の植物です。この植物から採れるさや状の実は、数百年の間、メキシコでカカオビーンズと一緒にショコラトルという飲み物として愛飲されてきました。いくつかの部族の闘い、スペインの侵略などを経て、16世紀にヴァニラヴィーンズは初めてメキシコから海外に持ち出されることになります。
ヨーロッパに伝わるやいなや、ショコラトルは貴族や大富豪の間で大人気となりますが、まだ当時のヴァニラビーンズはメキシコ由来のチョコレート風味づけとしての用途しかありませんでした。ヴァニラの用途が広まったのは17世紀に入ってからです。アイスクリーム、お菓子、パンなどさまざまな分野で欠かせない香料としてもてはやされています。
ヴァニラにとって大事件が起きたのは18世紀末でした。メキシコからヴァニラの株が盗み出されたのです。この株はフランス領イル・ド・ブルボン(現在のレユニオン島)に持ち込まれ、この地域で栽培されはじめるのですが、ここで問題が起きます。らん科特有の美しい花を咲かせるのですが、さやが実るのはほんのわずかだったのです。
ここで、小さな蜂の存在がクローズアップされます。ヴァニラの花はめしべとおしべが薄い膜で隔てられているため、小さな蜂が飛び回ることで受粉が行われます。しかし、メキシコ以外の地域には、受粉を担う小さな蜂がいなかったのです。
そして、もう一つのキーワードである一人の奴隷がここで登場します。彼は試行錯誤の末に、竹で作った串のようなもので膜をよけて人工的に受粉させる方法を編み出したのです。適度な間隔をあけてよい花を選んで受粉させ、健康な株であれば50~200本のさやが実るように調整することで、ヴァニラビーンズの品質は飛躍的に上がりました。この方法は今も変わらずに行われています。

ヴァニラの女王と呼ばれるブルボン ヴァニラを原料に

レユニオン島で産するヴァニラビーンズは、かつてその島がブルボン島と呼ばれていたことから、昔からブルボンヴァニラと呼ばれ、その高貴な香りから、“ヴァニラの女王”と賞されています。しかし世界一の高品質ヴァニラとして認められるまでには、さまざまな改革や挑戦があったことは言うまでもありません。
その一つが、ヴァニラビーンズの熟成方法の改革でした。受粉後、6週間ぐらいたつと、15~23センチのさやが実ります。このさやの先端が黄色くなったものから準じ摘み取り、加熱されるのですが、メキシコやインドネシアではオーブンに長時間入れたり、ヒーターに当てるなどの方法を採用しているため、ヴァニラにとっても最も重要な香り成分の量が劣る製品になりがちという欠点があります。
レユニオン島で行われているのは、わずか3分だけヴァニラビーンズを熱湯に漬け、天日干しにする方法です。夕方になると毛布とわらのマットに包んで一晩蒸し、翌日は天日に干すという作業を何度も繰り返し、さらに保管室で熟成を重ねます。このように最高の香気を引き出すための作業は3〜6ヵ月にも及びます。1キログラムの熟成ヴァニラビーンズを作るためには、5キログラムもの緑色のヴァニラビーンズが必要とされます。
現在、世界の各地で栽培されているヴァニラビーンズは、ヴァニラスティックとしてそのまま製菓用に用いたり、香料会社によりヴァニラエッセンスなどに加工されています。その中で、ヴァニラ本来の風味をそのままに抽出した100%天然濃縮ヴァニラ原液を造り上げる技術と設備を持っているのが、世界唯一であるレユニオン島のシャテル社です。

いっさいの添加物を使用せず、自然のままの香気を抽出

シャテル社は現在の代表者アラン・シャテルの祖父であるジャン・シャテルによって1907年に創業されました。新鮮なフルーツを使った天然トロピカルリキュールシリーズ「ル・ヴォルカン」をはじめ、ラムやリキュールなどで知られるシャテル社は、高品質のヴァニラ原液を生産することでも世界中に知られています。
シャテル社では、世界の総生産量の70%以上にあたるブルボンヴァニラの育成から受粉、収穫、洗浄、乾燥、発酵、濃縮に至るまで、一貫してフランス政府のAOC( 原産地呼称統制法)に倣い、ブルボンヴァニラの名を誇り持って冠する100%のヴァニラの抽出液を作っています。この原液は世界中の香料会社に天然原料として供給されており、一般の消費者の手に渡ることはありませんでした。
100%天然濃縮ヴァニラ原液が初めて一般消費者に輸出されたのはフランスと日本でした。商品名はモンレニオン。フランスと日本に限っての限定輸出ということになります。モンレニオンは香料会社の加工をいっさい経ていないため、限りなく自然のままのヴァニラの香気が生きているのが大きな特長といえます。
この原液の抽出方法は、二重タンクの中にヴァニラビーンズと溶剤を入れて加熱し、閉鎖状態の中で循環・攪拌しては寝かせる作業を5日間繰り返し、さらに新しいヴァニラビーンズを入れたタンクに原液を移すという作業を繰り返し、15日間かけて自然のままのヴァニラの風味を抽出していくというもの。最終的にはアルコール度数12度に整えられます。
こうして得られた100%の天然濃縮ヴァニラ原液「モンレニオン」の色彩は自然な濃褐色。増粘剤などの添加物をいっさい使用していないため、むだなとろみがなく、さらっとしています。高品質の証明、馥郁たる香りが長時間持続するのは、ヴァニラの香りである天然のバニリンが高濃度でふくまれているため。フランス、日本の公的機関の分析結果でも、モンレニオンのバニリン含有量が世界一であることが認められています。モンレニオン1Kg製品にはヴァニラビーンズ約3Kg(300本)分もの香気が含まれます。
合成バニリンやヴァニラエッセンスでは決して得られない、長期間変わらない馥郁(ふくいく)たる自然の香気が、ヴァニラビーンズを用いることなく手軽に得られるという利点で、モンレニオンは今も変わることなく世界の香料メーカーに支持され、フランスと日本の一流パティシエにだけ愛されています。

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